平凡宇宙の季節

0.これまでのあらすじ nightscraps2.hatenadiary.jp 1.やさしい暗闇から nightscraps2.hatenadiary.jp 2.難しい暮らし nightscraps2.hatenadiary.jp 3.好き nightscraps2.hatenadiary.jp 4.たべたいものを作るのよ nightscraps2.hatenadiary.jp 5.たわ…

これまでのあらすじ

「平凡宇宙」というブログを消して特に後悔がないのは、書いてきたものに思い入れがないからだろうか。それらを書き終わったとき、多少の達成感があったのは事実だけど、それ以上に(たぶん)不完全燃焼感があったのだと思う。「あのブログ好きでした」と言…

つないでみると、

目の前の二人が手をつないでいる。一人の手がもう一人の手のひらの上で重ねられ、指と指が交互に絡みあって簡単には外れないようになっているのだけど、それは真白な貝殻のようにも、得体のしれない生命体の交尾のようにも見えた。路面電車が停留所にとまっ…

刺さるわ

寒いのに雨まで降っていて、そういう状況で外に出て行かないといけないのはすごく憂鬱だ。陰気な顔で窓辺に立って、いっそのこと授業をサボってしまおうかとも考えるけれど、おとなしくコートに袖を通してドアを開ける。いくつもの銀色の点が道の上で線にな…

美しさと怠惰

そろそろちゃんとしたいのだけど、というか年が明けたり春が近づいたりするたびにそう思うのだけど、うまくはいかない。ちょっと進んだと思ったら再びふりだしに戻る。夜はうまく眠れずに、朝はすんなり起きることができない。今ぐらいのとても寒い日なんか…

箱庭

時間があるとピクシブやツイッターをパトカーみたいに巡回して、すてきな絵を発見すればこっそりハートマークを残す。自分の好きな漫画やアニメ、それからバーチャルユーチューバーなんかの二次創作を見るのがとても面白くて、こんな場面公式にはありはしな…

くらい水槽

小春日和を期待していたのに、今日はいつもより風が冷たくて、あんまり寄り道せずに帰った。慣れない服をさっさと脱いでハンガーにかけ、部屋着に着替えた。布団でくつろいでちょっと時間を潰した。お昼に何も食べていなかったから、少し早いかなとは思いつ…

たわいもない

元々人と関わるのに消極的な方だから、「〇〇のためにみんなで〇〇をしましょう」という文言を見ると萎縮してしまう。いや、そのきっかけで出会った人と仲がよくなることもあるかもしれないけれど、人と関わるのが義務みたいにされると肩に力が入って余計に…

たべたいものを作るのよ

あらかじめ買うものを決めてスーパーに行ったことがあまりない。だいたいが行き当たりばったりで、スーパーをあちこち巡りながら頭の中で献立を考える。少しばかり空いてきたお腹に耳をすまし、何が食べたいか、その声を集めていく。昨夜は中華料理にしたし…

好き

人の本棚を見るのがどうしても好きだ。この間、とある事情で大学の先生の研究室にお邪魔したときも、壁にずらっと並ぶ沢山の本をつい見てしまった。なんというか、突然宝箱の中身を目の前で広げられたみたいな感じがある。そして僕は子供の目でそれらを一つ…

難しい暮らし

なんでもかんでも楽な方がいいに越したことないのに、未だにすべてが難しい。光熱費とかをコンビニまで払いに行くのも億劫だし、僕が帰って来るのを静かに待ち構えている洗濯物の小さな山も蹴り飛ばしたい。なぜヒゲは毎朝伸びてくるのか。なぜキッチンはす…

やさしい暗闇から

ときどき落ち込む。ときどき取り返しのつかない間違いをして何も考えられなくなる。ときどき、日の暮れた砂浜でただひたすら波が来るのを待ちつづける。晴れた朝はいろんな悩みをほぐしてくれると知っているけれど、いつまでも夜に執着して、波の代わりにや…

わたしを離さないで

ゼミで、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読んでいる。来週の授業でもう物語は終わりを迎え、そろそろ総括になりそうだ。自分はSFを読むのが苦手だから、最初の方は読み進めるのが亀のようにスローだった。それでもところどころに散在している疑…

雲はゆっくり進むのよ

静かな夜が怖い。ピンと張りつめた空気と、隣り合せの他人の生活。咳払いが無情に響いて、薄い壁を貫いていく。プライベートなんて言うものは見せかけで、容易く誰かが介入してくる。知らない人の笑い声、スポーツ番組の実況の声、闇を駆ける車の音。そうい…

丸く、柔く

すべてのことにやる気が起きない。面白い本を捲ってもすぐに飽きてしまう。甘いコーヒーを飲むこと以外楽しみがない。また身体が丸く、柔くなっている。シャワーを浴びるために服を脱いで、鏡に映る自分を見たときの情けなさ。ゴムボールみたいに膨らんで、…

ルーザー

高校に入学したとき、まさか部活に入らなくちゃいけないとは思っていなかった。しぶしぶ僕は囲碁将棋部に入部した。部室には僕のような眼鏡男が数人いた。はたして、僕が部活に参加したのは合わせて何回だろうか。大会にも参加したけど、仮病を装って途中帰…

キリンジと曇天

午後になっても、物憂げな曇り空は変わらなかった。雨が降りそうで降らない、あいまいな天候。授業が早く終わったので、僕は服を買いに出かけることにした。ふと再生したキリンジの「雨は毛布のように」が心地よくって、今日はずっとキリンジのベストを聴い…

悪玉

まだ幼い頃、仮面ライダーに夢中だった。朝早くに起きて、まだ薄暗い部屋でテレビ画面に集中していた。でも、正直内容はいっさい理解できていなかったと思うし、ただ格好いいアクションシーンが見たいだけだった。その証拠に、映画を観に行ったとき、アクシ…

それが夏休み

中学生ごろの夏休みを、ふと思い返す。土曜日は朝からテレビを見ていた。おさるのジョージに、ひつじのショーン。そのあと「せやねん」という番組を見ながら、家族と朝ご飯を食べる。ぱっと思い出すのは、父が作る目玉焼き。胡椒が多すぎて少し辛くなってし…

目覚めると、まず身体のだるさに気がついた。息を吸い込むと、ひゅうという音がする。あ、これは喘息だなとすぐにわかった。小さい頃は小児喘息で、寝るときには体が暖かくなってしまうと咳が止まらなかった。父も気管支が弱く、昔は一日一箱吸っていた煙草…

珈琲ミルク

キリンジの「グッデイ・グッバイ」のミュージックビデオを見ていたら、喫茶店でサンドイッチが食べたくなった。舞台は東京練馬区にあるという喫茶店「プアハウス」。キリンジの二人がそこでサンドイッチを待っていると、失恋したばかりの男の子が入店する。…

ひとりぼっちたち

泥臭いアメリカのブルースみたいな気候だと思った。つい目を細めてしまう。気が付くと汗がつーっと伝っていく。ここまで暑いと、些細なことでいらいらしてしまう。なんでこのおばさんはのろのろと自転車で走ってるんだろう。なかなか信号が青に変わらないな…

劇場

シェイクスピアの『リア王』を、大学のゼミで読解している。例えば「今週は99ページから113ページ」という風に区切られて、その中から自分の担当箇所を決める。毎週4人がレジュメ(プリントみたいなもの)を作成し、ゼミの時間に発表する。どのようなレジュ…

地下に生きる魔術

雨がずいぶん長い間降り続いている。ときどき力強い風が吹いて、木立や枝葉が揺らされる。どれだけ土が雨粒を受け止め、飲み込んでも、やっぱりすぐにぐちゃぐちゃになってしまう。そして確かににじんでゆく。 今日、麻原彰晃を含む、「オウム真理教」の元幹…

三日月

‘‘want’’という英単語の元々の意味は「欠けている」だったらしい。そして、「欠けているから欲しくなる」という流れから、「欲しい」という意味が生まれ、そちらが今も定着している。うん、足りないものは欲しくなるのだ。睡眠も、食事も、休養も。そして、…

浪漫飛行

突然ここでラオスあたりに旅をしに行ったら何が変わるのだろう。多分そんなに変わることはない。授業の単位が取れなくって一学期が全部パアになってしまうけれど、せいぜいその程度だ。唐突にすべてを忘れてぴゅーっと消えてしまいたい時がある。『ドラゴン…

日日是好日

月に一度、必ずと言ってもいいほど頭痛に見舞われる。今日がその日だ。ずきずきと痺れるような痛みを感じながら、これを書いている。へんてこな気分だ。たぶん今日のは気圧のせいだと思う。雨の日は頭痛になりやすいと聞くし。頭だけが熱を持っていて、手を…

ステレオ

ビートルズを聴いている。『With The Beatles』で、今は2曲目が流れている。右耳ではボーカルとコーラスの声が、左耳ではギターやドラム、ベースなどの音が聞こえる。イヤホンって、必ず片方がまずダメになるから、その瞬間からビートルズの音楽は聴けなくな…

まだまだだね

先週解いたテストが、今日返却された。論述問題が2問あったのだけど、僕はあまり点数を見たくなかった。もし、全然かけてなかったらどうしよう。文章を書くのが好きなのに初歩からできていなかったら...。いろんな「もしも」で頭の中がいっぱいになった。先…

その時

朝起きて、眠たい頭のままツイッターを開く。タイムラインを遡っていくと、だんだんと「大変なことが起こったんだな」ということが分かってくる。と同時に、心が汗をかく。今、冷蔵庫にはほとんど何も入っていないし、ご飯も炊いていない。みるみる不安が募…