ルーザー

 高校に入学したとき、まさか部活に入らなくちゃいけないとは思っていなかった。しぶしぶ僕は囲碁将棋部に入部した。部室には僕のような眼鏡男が数人いた。はたして、僕が部活に参加したのは合わせて何回だろうか。大会にも参加したけど、仮病を装って途中帰宅した。どうしてここまで部活に熱中できなかったのか、今では疑問だ。

 二年生になったが、継続届は出さなかった。事実上僕は「帰宅部」になった。放課後、僕を呼び止める声があった。外見は、ナマズに似ている。『ちびまる子ちゃん』だったら永沢君のようなキャラクターだろう。彼は射撃部に属していたが、僕みたく「帰宅部」になり下がった男である。僕と彼はまあまあの日々を一緒に帰った。ほんの短い距離だ。大した会話をした覚えもないし、ほとんどが憎悪と偏見に満ちていた。なかなかクラスの中では吐き出せない真っ黒な感情を話しても彼は大笑いしてくれたのだ。

 彼といることによって、心のどこかで優越感を感じていた。もちろん彼と話していると素直に楽しい。でも、テストの点数を比べたときに自分の方が少しだけ優れているから、高い位置にいる気分を味わっていた。もしかしたら、見た目だって自分の方が多少ましかもしれない。なんてことを、彼の隣で自転車を漕ぎながら思っていた。狭いクラスの中で擦り減った心。彼との会話の中でそれを補おうとしていたのか。

 成人式で久しぶりに彼と会った。何も変わらず、そいつはそいつのままだった。僕は彼のスーツ姿を笑い、向こうは僕の髪形をからかった。僕に話しかけてくれる人もいたけれど、どのグループの会話にもうまく入れず、誰とも連絡先を交換せずだった。一方彼の方は、いろんな人に声をかけられ、からかわれ、言葉を交わしていた。彼には親しみがあふれていた。人を惹きつける力が。

 僕は一人で水をぐびぐび飲みながら「いつも通りだ」と思った。僕は一人で、向こうは人だかり。中学のときを思い出す。友達と遊びに行く約束になって、なぜか電話をすることがあった。日時のことなんかでやりとりするためだろうか。僕はそわそわしていた。何回もかけようとしてはやめた。勇気を出して電話をかけた先では、何人かの男の声がした。さっきまでの落ち着きのない自分が途端に恥ずかしくなった。

 何のために勉強してきたんだ。そして今もしているんだ。どうしてお前は一人なんだ。僕はずっと誰かに憧れている。