それが夏休み

 中学生ごろの夏休みを、ふと思い返す。土曜日は朝からテレビを見ていた。おさるのジョージに、ひつじのショーン。そのあと「せやねん」という番組を見ながら、家族と朝ご飯を食べる。ぱっと思い出すのは、父が作る目玉焼き。胡椒が多すぎて少し辛くなってしまった目玉焼きだ。パンを食べながら、それをほおばる。コーヒーを飲んで、新聞の四コマ漫画とかラジオ番組表を見る。そして、顔を洗い、歯磨きをして、出かける準備をする。

 土曜日は、訳もないのに出かけていたような気がする。お金がなくても、とりあえず自転車を漕いでいった。駅の近くにあるデパートには、本屋さんとCD売り場がある。よくよく考えると、買いもしないのに立ち読みしてそのまま帰っていくという迷惑な客だった。僕が好きだったのは、ミュージシャンのインタビューとか、音楽雑誌だ。ポール・マッカートニーディスコグラフィーが載っているのを見て「次はこれを買おうかなあ」とか考えたり、デヴィッド・ボウイの写真を見て「かっこいいなあ...」とうなったりした。現在の僕の音楽知識がほとんどここで養ったんだろうな。

 僕が生まれ育った町には、CDショップがあんまりない。ないし、在庫があんまり多くない。だけど、とあるお店に僕好みのアルバムがたくさん置いてあって、そこでボウイの『レッツ・ダンス』やビートルズのアルバムを比較的安価な値段で買った。たしか、高校受験に受かったお祝いで頂いたお金はほとんど音楽に消えていった。夏休みに、冷房の効いた畳張りの部屋で、「ホワイト・アルバム」を聴いたりしていた。だからか、「Dear Pludence」を耳にすると初夏の風がふわりと思い浮かぶ。

 夏休みに淡々と勉強できる人がいたら、僕は素直に拍手すると思う。だって、夏休みですよ、夏休み。お昼まで眠っていたいし、好きなだけ音楽を聴いたり本を読んだり、時には街へ出てお茶をしたい。じっとしているだけで心は跳ね始めるし、新しい服に袖を通したくなる。日清カップヌードルを食べながら「吉本新喜劇」を見て、だらだら過ごしながら3時にアイスクリームを食べるのもいい。とにかく、真面目に何かをするなんてしたくない。すべて企画倒れになるのも、夏休みの一つなんだ。