刺さるわ

 寒いのに雨まで降っていて、そういう状況で外に出て行かないといけないのはすごく憂鬱だ。陰気な顔で窓辺に立って、いっそのこと授業をサボってしまおうかとも考えるけれど、おとなしくコートに袖を通してドアを開ける。いくつもの銀色の点が道の上で線になって、だらだら続いていた。その線に従って歩く僕の傘から、雨粒がすべり落ちて僕の足あとを標す。

 金曜日の午後、チャイムが鳴って教室から人が出て行くのを待っている間に、月日の流れの速さをぼんやりと思った。冬の黄昏みたいに、一日一日があっという間に、その美しさを味わう暇もなく暮れていく。日々の背後には数々のノルマと苦しみが出番を控えている。例えば、寒い朝に布団に包まっていたいときも、夜中にお腹が減って眠れない時も、それらは消えたりしてくれない。めんどうで、回避したい。だけど健気に立ち向かう人々が輝いて見えるから、自分も苦しみを甘受するのだ。

 雪の中で育った野菜は甘みが増すと言う。厳しい寒さから身を守るために、野菜が水分を糖分に変えるからだとかなんとか。世の中でも、これに似た考えがはびこっているような気がする。誰かから背負わされた苦しみを正当化して、そこから幸福を見出すように強いられる。そして過酷な冬を勝ち抜いた人々は、次の世代にも同じ苦しみを求める。苦しめ、苦しめと力を加える。この苦しみに感謝しろ、と迫る。そうやって苦しみは永遠に続いていく。南国で育つ果実に唾を吐きながら。

 どしゃ降りの中を歩む人影を、じっと見つめている。君が風邪を引かぬように、風雨に流されぬようにと静かに祈っている。気休めのあったかいお茶みたいな文章を君に捧げる。いつか、柳のように君が倒れたら、僕の体温で君の冬の厳しさを知るといい。冬のばからしさや、そこへ勇敢に挑もうとする君の偉大さも。暖炉に薪をくべるように費やした君の青さ。寒さから君を守ってくれるときが来るといいね。今は、君の肌を雨が刺す。君の体温をじわじわと奪っていく。それだけが君の人生なのかな?僕は若すぎてまだわからない。僕はただお茶がしたい。