やさしい暗闇から

 ときどき落ち込む。ときどき取り返しのつかない間違いをして何も考えられなくなる。ときどき、日の暮れた砂浜でただひたすら波が来るのを待ちつづける。晴れた朝はいろんな悩みをほぐしてくれると知っているけれど、いつまでも夜に執着して、波の代わりにやって来る、似たような声に耳をすます。

 何もできないまま、スタンドライトだけ灯る部屋でベッドに横になり、いろいろ動画を見る。最近はバーチャルユーチューバーの人たちがいいなと思う。初めは穿った捉え方をしていたけれど、ふとしたきっかけで知ってからは好んで見るようになった。各々のキャラクターにはそれぞれ特徴があって、どんどん好きな人が増えるのが嬉しい。彼らはバーチャルな存在で虚構でしかないのだけど、声や口ぐせ、ちょっとした仕草が愛着になる。まるで自分の近くにいるかのような親しさを抱く。

 くだらなくてみっともない彼らの笑いが、夜を癒してくれる。疲れた肌も使い古した頭もそっと撫でる。まだ砂浜の比喩が使えるとしたら、それは誰もいない波打ち際でやさしく波を照らす月の光だ。だけどその光の微力だけでなんとかやっていけそうな気がしてくる。彼らのやさしさに触れながらまぶたを閉じる。暗闇では思考がすいすいきれいにクロールするから、あんまり遠くに行かないように頭を休ませる。

 生きようと思うことはときどき難しい。それはおしゃれな服と似ていて、身につけていることに疲れてしまうのだ。その分、生きたくないという気持ちは純粋で誠実なものだと感じられる。暗くて静かな歌が耳に馴染むように、すっと心に落ち着くのだ。だからこそなかなか離れることができなくて、暗い気分をえんえんと味わってしまう。いけないことだけど仕方ない。ときどき落ち込む。ときどき取り返しのつかない間違いをして何も考えられなくなる。いろんなことに嘆き、自分を削っていく。どうしようもない凸凹。僕は今日も、うっすらとした闇の中で僕みたいな人のことを思う。あなたのその凹んだ部分で、やさしく誰かを掬えるかもしれないって考える。