箱庭

 時間があるとピクシブツイッターをパトカーみたいに巡回して、すてきな絵を発見すればこっそりハートマークを残す。自分の好きな漫画やアニメ、それからバーチャルユーチューバーなんかの二次創作を見るのがとても面白くて、こんな場面公式にはありはしないのに、誰かの頭の中で練りあがった話が絵になっている。ときに解釈が一致しなくて首を捻る作品に出会ったりもするけれど、同じ題材でも人によって感じるところが異なるのだと気づかせてくれる。

 まだ二次創作に触れたことがなかった頃は、そういう出版物を本屋で目にするたびに違和感を覚えていた。世界観とか登場人物とか他人が作ったものなのにどうして作者以外の人が本を出しているんだろう...という、面倒くさい戯言をぶつぶつ呟いて、友だち(こちらは二次創作物を買ったりしていた)の機嫌を損なわせた。

 だけどあるときに『ユーリ!!! on ICE』というアニメ作品を観て、「この二人の関係性がもっと見たいのに、なぜ、なぜ...」と満たされない思いがどんどん積もり、それをどうしても解消したくなった結果、ピクシブの存在を知った。そこには自分と同じような妄想をしている人がいて、僕には絶対できないことをしていた。僕は非公開でいいねをして、思い出しては絵を開いてこっそり胸を高鳴らせている。そういうのがずっと続いている。

 いろんな人が頭の中に妄想をたくさん飼って、立派に育てている。端からみればただの現実逃避でしかないけれど、愛から生まれた嘘はどこか誇らしい。例えばとあるバーチャルユーチューバーが引退して、もう配信では会えなくても、絵師さんが彼らの絵を描きつづける限り、まだどこかで存在しているような気持ちにさせてくれる。そうじゃなくたって、現実ではないバーチャルな存在が、この近所らへんで生活しているんじゃないかと思うほどの、生々しさ、温かさを感じる。もちろんそこには虚しさもあるわけで、こんな世界があったらなあと、うつうつ夢想してしまう。だけどそれすら自分の中に妄想を飼うことにつながっていて、誰も届かない世界とコネクトできる手段になる。どれだけ目の前が素っ気なくて、唾吐きたくても。