シーツの海に漂う

 布団は、海だ。そう、僕は海にぷかぷかと浮きながら、何かの間違いでそのまま一日が過ぎていかないかと期待する。でもはっと時計に目をやると、もう時間だ。学校へ行く準備をしなければいけない。海を離れ、陸地へ。今日の天候は、曇りまたは晴れ。海が恋しい。腫れぼったい顔を手でさすり、クロレッツ(ミントタブ)を下で転がす。正直言って好んで舐めている訳じゃなく、単なる眠気だましだ。はあ、頑張れ僕、と静かに思う。

 疲れたからだが、部屋の扉を開ける。リュックサックを床に置くと、疲れが残響のように、じんわりと感じられる。ご飯が炊けると、おかずを作って簡単にそれを済ませる。お風呂を入れている間、歌をうたうのが好きで、隣の人に聞こえてるんだろうなあと思いながら気持ちよく歌う。体を洗い、お風呂に浸かる。うん、母体ってこんな感じなのかな。かなり心地いい。そしてお風呂から出て、今。午後八時過ぎ。はあ、頑張ったな僕、と静かに思う。

 もともと、あまり寝つきが良い方ではない。寝るのに最低30分はかかる。でも布団でうだうだしている時間も嫌いじゃなくて、眠いなあと思いながら枕を抱いて「その時」を待つのは不思議な感覚がする。布団という海で、溺れる瞬間を待っている。すごく地味な時間だけど、とろけるくらい甘い。きっと、南国で太陽を浴びながら海に浮かぶと気持ちがいいだろうな。鳥の鳴き声と波が打つ音しかしない。雲の流れを眺めながら、ただただ全身全霊で浮かんでいる。はあ、休暇が欲しい。セレブが南の島でバカンスをする理由がよく分かる。でも、今週はまだ一日残っている。僕はこれを書き終えると中国語の勉強をして、明日のテストに備える。ファイっ。

 ところで、僕は高校生のときまでよく詩を書いていた。恥ずかしながら。その中でふと「シーツの海」という言葉がぽんと出てきた。なぜか気に入って、今でも覚えている。シーツのしわというか、ぐちゃぐちゃになったところがなんだか海面を思わせるからだ。なめらかなシーツを見ると、ついつい手で触ったり頬に当ててみたくなる。それに、ふわふわの布団には飛びつきたくなるものだ。サーファーが波に飛び込むように、一気に気持ちよさへ上昇していく。あたたかい波に溺れて、夢を見る。つい先日、夢の中の僕は、寝ている両親に布団をかけてあげていた。布団の中で布団にまつわる夢を見たのは面白かった。そういえば二人は、もう何十年も一緒に布団で寝ている。将来僕もそんな感じになるのだろうか。海でぷかぷか浮いていたら、隣から大きないびきが聞こえてきたりとかね。