ごめんね、羊たち

 ベッドに入った途端、いろんなことが気になり始める。なんかチクチクするなあ、明日何食べようかな、何着ていこうかな、あれとこれと...。頭の中で繰り出される問題の、その最大の悩みはこれだ。「どうやったら眠れるんだろう」。

 これを考え始めると、もうきりがないというか、蟻地獄にハマってしまう感覚に近い。たとえば、眠りに落ちた途端今のこの思考はどういう風に消えるんだろう。僕はベッドに入るとたくさん妄想してしまうのだけど、その物語の途中から夢になりはじめるのだろうか。じゃあその感覚ってどんな感じで訪れるんだろう。そんな風にじっと待っていたら、眠れるはずもない。でも辛抱強く待っていたらなぜか眠っていて、「眠り」の神様にツンと触れられるまでひたすら耐えるしかないんだなあと、寝つきの悪さが嫌になってくる。

 僕の母は、布団で寝ていると自然と眠ってしまう人で、ドラマを見ていても途中で寝落ちしていることが多い。ある夜、これは見ておきたいドラマだからと、上体を起こし眠気と戦いながらテレビを見ていた。そのドラマが終わり、次は「ガキの使い」が放送されていた。すると母が「眠気に耐えてたらどっか行ってしまったわ...」と苦々しそうに言った。「ああそう、ガキの使いでも見てたら?」と答えて、僕は本の続きを読もうと布団に入った。五分も経たず母の寝息が聞こえてきて、なんだかちょっと羨ましいなあと思った。

 夜ちゃんと寝て朝きっちり起きれるってのは、人間として正しい規則だから、僕のようなゾンビのような人種は一生苦しまなければならないのかもしれない。でも不思議なのだ。世の中には眠気を飛ばすカフェインと眠りを誘う睡眠薬があるのだから。CMで、夜遅くまで仕事をしているサラリーマンがエナジードリンクを飲んで「仕事がんばるぞぉ!」みたいなことやってるのを見ると「毒されてんなあ」と思う。普通そんなやる気全開で残業してる人いない気がするなどなあ。最近、本気で眠れないから、薬局でそういう薬を買おうかなと考えているところだ。

 ところで、なんで眠れない時は羊を数えるんだろう。なんだか、日向でじゃれる猫になった自分を想像した方が心地よく眠れそうだけど。柵を越えた羊はどこへ行くんだろう。羊の数が足りない時は何回も行ったり戻ったりしてるんだろうな。「ちぇっ、早く寝ろよ...」とか思いながら、ぴょーんと飛んでたら面白いな。いやいや、ごめんなさい、今日は早く布団に入りますから...。