私の一人暮らし

 自分でもなんとかなるもんだな。一人暮らしを始めてまず思ったのがそのことだ。始める前はとにかく分からないことだらけで、なにしろ高校まで実家暮らし、両親になんでも任せっきりだった。自分が何ができるのかさえ判然としない中、唐突に、そして確かに一人暮らしが始まった。最初の何週間かは、大学から帰ってきて部屋のドアを開けると真っ暗、みたいな状況に上手く慣れず、高校時代の友人にラインしてそのもやもやを共有したりしていたけれど、その彼も新しい土地で新しい恋を始めてからはほとんど連絡をしてこなくなったし、こちらもこの独りの状況を受けいれ始めていた。ふと気づくと、「あれ、俺普通に料理できてんじゃん」「お金の管理もまあなんとかなってるなあ」。もしかすると兵士は、一旦戦場のなかに足を踏み入れた途端勇敢な戦士へと変身するのかもしれない...なんて考えながら、はや一年が経とうとしている。

 ここで「一人」について考えたい。というのも、実家暮らしをしていた頃よりも一人暮らしをしているときのほうが圧倒的に孤独を感じる時間が少ないのだ。友達の数なんかは関係ないし、むしろ大学生になって他人と接する時間は減ったような気がする。それなのになぜだろうと思っていたときに、僕は宇多田ヒカルの「For You」の歌詞に出会った。その中には「一人じゃ孤独を感じられない」という言葉が出てくる。つまり誰かと誰かがいるからこそ、羨ましさや嫉みを感じて、結果的に孤独に繋がっている。すると今の僕はどうだろう。クラスでの人間関係を気にする必要もなく、特に浮ついた話も起こらない。考えることと言えば「今日何食べようかな」とか「今日テレビ何があるかな」という、大切ながらまったくくだらないことばかりだ。生活の大変さを一応知った今、孤独が顔を出す必要なんてなくなったのだ。

 また、新しい発見があった。なんてことはないありふれたものだが、「両親の有難さ」である。学業もしながら一方で生活もしていかなければならない苦労は、結構目を丸くした。1限から5限までびっしり授業が埋まっているときも、洗濯物や食器やお風呂は待っているのだ。そうした苦労を一応経験したうえで、ここに「子育て」が加わったときのしんどさを思うと、正直言葉も出ない。それでもみんなやってきたんだなあ。でもできない人がいてもしょうがないなあ。今まで他人事だったことだが少しリアリティが増した気がした。なにしろ、仕事や生活は自分のことだが、子育てになると話が変わってくるのだ。こんなの、一人じゃできないよ、と本当に思った。

 今まで当たり前だと考えていた場所をいったん離れ、客観的にそこを見てみると、新しい学びが生まれてくる。まだまだ始まったばかりの一人暮らしだが、ここから見える景色はずいぶん刺激的で、またずいぶん地味だ。