母心

 僕はまだ子供だ。もし僕が世の中に迷惑をかけてしまうと、それは親の責任になる。まだまだ親にお世話になっているし、ある程度先までは、それが続くと思う。子供の僕にとって、親の心はわからない。親が子供に対してどれほどの愛情をもっているのか、その詳細は未知だし、きっとそれがわかるのは僕が親の立場になってからだ。「親の心子知らず」という言葉は、なによりも真理であると思う。

 『Mommy』はカナダのグザヴィエ・ドラン監督による、2014年の映画だ。主な登場人物は、未亡人のダイアン、その息子スティーブ、彼らが引っ越してきた先の向かいに住むカイラの三人だ。スティーブは、普段はおとなしい15歳の青年だが、ADHD(多動性障害)のため一度スイッチが入ってしまうと手が付けられないほど攻撃的になる。施設に入っていた彼は、食堂に放火し一人に重症を負わせてしまう。このことからダイアンがスティーブを引き取り、引っ越しをしたのだ。一方カイラは、吃音のため教師を休職していた。ダイアンは、自分が働いている間の息子の見守りをカイラに頼む。最初はいびつだった二人もだんだんと打ち解け、学びに意欲的になってゆく。楽しい日々が続いていたが、スティーブの放火による治療費や慰謝料の請求書が届き...。

 物語の内容もそうだけど、画面の比率の変化や挿入される音楽も最高で、ぜひ見てほしい。個人的には、オアシスの「Wonderwall」が流れてくるタイミングが素晴らしくて、思わず鳥肌が立った。物語が進むにつれ涙腺が緩くなり、ばかみたいに泣いてしまった。

 僕がこの映画を観て思ったのは、人を何かを捨てながら生きていくのだなあということだ。まず子供の頃の自分を捨て、働く始めると自由を失い、若さを失い、美しさを捨ててゆく。子供が生まれれば自分よりも子供の方が大切になるから、いろいろと捨てるものも多いと思う。川上未映子さんのエッセイ『きみは赤ちゃん』を読むと、その母の心を少しばかり感じ取れた(ほんとうに理解できたかはわからない)。子供を産む母親とそうでない父親とでは、やや異なるのだなあと、なんとなく思った。

 問題を抱える息子と、その子を愛する母親の姿を見ていると涙が出てくる。きっと僕も、多かれ少なかれ問題を持っている。それは、どんな教育をもってしても治らない病のようなものだ。スティーブは何回もダイアンを悩ませ、困らせる。しかしダイアンはいつまでもスティーブのことを愛している。家族というのは、永遠に切れない縁の糸のようだ。たとえ血が繋がっていないとしても、絆は頑丈で壊れたりしない。『Mommy』、自分の子が生まれたときに、また観たい映画だった。